個人のバックアップ用 NAS に NAS 用 HDD は不要かも
NAS のおいしい季節
台風と停電の季節です。バックアップ環境を一新するか,UPS を導入したしいいかげん NAS も導入するか,いや既製品の NAS は心配だからベアボーンか何かで久しぶりにファイルサーバを仕立てるか……などとあれこれ悩むなかで,NAS 用 HDD について思ったところがあるのでメモします。
NAS 用 HDD は何が違うのか
そもそも NAS 用 HDD とは何で,どこが違うのでしょうか。
WD の現行コンシューマモデルを見ると,デスクトップ用途向け(Blue・Black),監視カメラ向け(Purple),NAS 向け(Red)と細かくセグメント分けされています。
このうち,Blue・Black と Purple・Red では 24 時間駆動対応を謳っている否かかが異なります。そうすると,Red に近いのは Purple だと感じるかもしれません。
しかし,大きな違いは他にもあります。Blue・Red と Purple・Black ではロードアンロードサイクルカウントの設計寿命が違うのです(Blue・Red で 600,000 回に対し Purple・Black では半分の 300,000 回)。これは,Blue・Red はこまめにスピンダウンして使うことが想定されているのに対し,Purple・Black は連続稼働が想定されていることを意味します。なお,ロードアンロードサイクルに関しては,2.5 インチも 3.5 インチも特に違いはありません(もっとも,他社では利用実態に合わせ同等グレードでも 2.5 インチのほうが高い数値を設定しているところもあります)。
マシン自体は 24 時間連続稼働していても,内部のストレージもそうだとは限りません。現在のシステムの多くでは一定時間アクセスされていない HDD の速度を落としたり,電源を切ったりする機能が利用可能であり,適切に設定された上でデータ用 HDD へのアクセスが一切ないような場合には,その HDD の電源は切られたままとなります。
通常,個人の NAS が 24 時間の連続アクセスを必要とすることはなく,適宜スピンダウンして使うことになります。そう考えると,どちらかと言えば,連続稼働が想定されている Purple よりもこまめな電源オフが想定されている Blue のほうが,個人用 NAS のワークロードに適しているといえるかもしれません。
もう一歩踏み込むと,24 時間連続稼働が明らかに必要でない,1人またはごく少人数がもっぱらバックアップだけに使うような用途ならば,デスクトップ用 HDD と NAS 用 HDD の差はそれほど大きくないのかもしれません。
個人向け低価格 NAS はデスクトップ用 HDD を使っている
実のところ,Buffalo や IO DATA といったベンダの個人向け低価格 NAS はごく普通の安価なデスクトップ HDD を使っています。
少し検索して実例を見てみましょう。
Buffalo LS210D に 東芝の DT シリーズ,DT01ACA200 が入っている様子がわかります。
IODATA HDL-TA には WD Blue の WD10EZRZ が。
IODATA HDL-A には DM シリーズの Seagate ST200DM001 が入っています。
もちろん,これらの低価格モデルの評判はよくありません。しかし、信頼性に限って言うと,低すぎて使い物にならないというほどではありません。個人的にも,失われてもさほど問題にならないデータ(重要でない監視カメラの映像など)をバックアップするのに使っていて,特に困った経験はありません。
結論:NAS 用 HDD をあきらめることで可能性が広がるのでは
NAS 用 HDD とデスクトップ 用 HDD を隔てるものはコストだけではありません。騒音や発熱にも違いがありますし,最近では,特定の容量や 2.5 インチモデルが手に入らなくなるなどしています。
一方で,高度な電源管理の可能な USB 3.0 HDD ケースの低価格化,Atom の系譜をひく Celeron や Pentium の高性能化・低発熱化および Linux の対応強化などにより,静かで小さなサーバを作るための環境はこれまでなく整ってきています。
NAS 用 HDD の採用を前提としなければ,HDD 以外の面での妥協の少ない,全体としてはより信頼性の高い構成も実現できそうです。
もちろんデスクトップ用 HDD の信頼性の低さには注意が必要ですが,もともとディスク自体の信頼性はあくまで,時間と手間を節約し,次のバックアップまでの間のデータが失われる可能性を抑えるために役立つに過ぎません。いずれにせよバックアップの多重化は大前提であって,ディスクの信頼性はデータを保全する上で必ずしも決定的な違いではないはずです。
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