Simplenote の代替として Nextcloud Notes を試している

Simplenote は,WordPress の開発元としておなじみの Automattic 社によって提供されている,オンライン同期可能なメモサービスです。

Simplenote

その名の通りとてもシンプルで使いやすく,何年か前に Evernote から移行して以来とても便利に利用してきました。

しかしながらその Simplenote について,最近気になることを知りました。昨年 12 月に実験的な有料プラン(今のところ特典なし)として「Sustainer Plan」が新しく導入され,運営に大きなコストがかかっていることも明かされたのです。

Help Support Simplenote: Introducing Simplenote Sustainer Plans – Simplenote

実質的な寄附であることもあり「月 19.99 米ドルまたは 年 199.99 米ドル」(日本からだと月 2940 円または年 29400 円)とかなり強気の値段ですが,この価格設定でもアクティヴユーザの 5% が契約しないと運営コストを賄えないとのこと。機能を考えると少なくともこの 10 分の 1 ぐらいでないと競争力がないと思いますが,利用者の半分が有料契約をするなんてまずムリでしょう。Simplenote の事業単独での収益化はとんでもなく難しいと思われます。

もちろん,これはただちにサービスの先行きが怪しいことを意味しません。Automattic 全体では WordPress の法人向けサポートという盤石の事業がありますし,WordPress の開発元という重要性から,好条件での投資も受けています。

ただ,状況はいつ変わるかわかりません。それにいかなる場合であれ,ひとつのプロダクトへの過度の依存は好ましくありません。また,この分野でかつて覇権を握った Evernote の苦戦を考えると,そもそもこの種の巨大な個人向け SaaS 自体が持続可能性を欠くのではないか,とも考えられます。

前置きが長くなりましたが,そこで Nextcloud です。Nextcloud には公式のプラグインとして Notes という機能があり,Markdown の簡単なメモの同期が可能です。Simplenote よりさらに機能は乏しいですが,ポケットに入れて持ち歩くメモ帳の代わりとして使う分には申し分ありません。

Nextcloud であればサービス終了の心配は必要ありません。Nextcloud の開発自体が止まる可能性も将来的にはゼロではありませんが,今のところ気にしなくて良いでしょう(なおその場合にも,Nextcloud の前身にあたり今も別個に開発されている ownCloud という存在があります)。

まだ本格的に移行すると決めたわけではないため,さしあたり既に利用している Nextcloud ホスティングプロバイダを使っています。Qloud というマレーシアの会社で,日本からのアクセスは遅いものの(とはいえ欧米のサーバほどではない),無料で 3 GB,「年」4 ドルで 25 GB というなかなかの容量を利用できます。

Home Page – Qloud MSP Qloud MSP

ファイル同期だと大容量を一気に同期するときに時々 500 エラーで切れる以外は気になることはありませんが,Notes だと実感できるほど遅くなる場合があります。E2EE にも非対応なので(禁止されているわけではないので PC では Gocryptfs や Cryptomator で透過的に E2EE して使うことはできますがスマートフォンでは困難),本格的に運用したい場合はやはり自分で VPS を運営するしかないでしょう。それでも Evernote の有料プラン(8100 円)よりは安くできますし,メモ以外にもさまざまな用途に使えます。

スマートフォン向けには Notes のアプリがありますが,PC にはありません。Simplenote と同じです。ただ実体としては単なるテキストファイルなので,Nextcloud によるファイル同期を導入済みであれば,フォルダ管理機能付きのテキストエディタであればなんでもクライアント代わりに使えます。試してませんが WebDAV でそのまま扱えるかも? Nextcloud を導入していない場合も,Nextcloud のウェブ UI から利用できます。これは Joplin などではできず地味に不便な点で,Nextcloud の公式機能ならではの強みと言えます。

スマートフォンアプリを使う場合も別途 Nextcloud アプリを導入する必要があります。Simplenote と比べると手軽さの面では劣りますが,Nextcloud もそれなりにコンパクトで行儀もよいアプリなので勝手はそれほど違うわけでもありません。Notes アプリのエディタとしての完成度は Simplenote より低めな印象があります。原理的には Nextcloud の高度なファイル管理機能を Notes でも利用できるはずですが,履歴表示など多くの機能の統合が未実装です。一方,エディタモードでも Markdown を簡易解釈して表示に反映してくれる(見出しを大きくするなど)などの優れた点もあります。

総じて,マレーシアのプロバイダを使っていることによる遅さを除けば,とりあえず自分の使い方で不便はなさそうです。引き続き Nextcloud Notes を試していこうと思います。

追記:
Standard Notes も試してみました。

Standard Notes | End-To-End Encrypted Notes App

これは NextCloud 同様にサーバも FOSS であり,セルフホスト可能です。

Argon2 + AES XChaCha20-Poly1305 による E2EE が標準採用されており,TOTP による 2FA にも対応しています。適切に実装されているのかという点についても,4 回の第三者監査を経験しているようです。

E2EE ゆえに起動はワンテンポ遅れ,年 63 ドルからの有料プランを契約しない限り機能は非常に限られますが,NextCloud Notes より使い勝手がよく,すぐれた選択肢になるのではないかと思います。

気になる点としては, 運営主体や利用条件がはっきりせず,個人事業に近いかたちのものであるようです。GitHub のプロジェクトでは 4 人の開発者の所属が確認できます。

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