ハードオフの BGM
ハードオフでは BGM として 3 曲のトラックが延々とループされている。ひとつは普通の CM のようなもので,「劇団ひとり」がアナウンスしている。もう一つは比較的近年になって導入されたラップ調のものである。
そして,最後のひとつが流れる時間が最も長いもので,使われてきた歴史も古い。とても単調で,なんらかの催眠効果が込められているといわれても驚かない。あの曲がループするハードオフの店内に滞在しているだけで思考力が削られていく。その結果,要りもしないものをなんとなく買ってしまったりもするのである。
有名な話だが,ハードオフのあの BGM は実は独自のものではなく,市販のロイヤリティフリー音源である。
株式会社ナッシュスタジオによるアルバム「NSC-715 19-Long Size」に収録されている「SC-1903」(楽曲 ID: NSC-SC-1903)という曲が,それである。
リリースは 1998 年 3 月 1 日 と意外と古く,ジャンルとして「ポップス,イージーリスニング」が設定されているほか,イメージは「楽しい,和やか,ファンキー」,キーワードは「ドライブ,行楽,仲間,家族,休日,語らい,1998年03月01日リリース」が設定されている。シーンは「VP,旅行」とのことである。
ハードオフのヘビーユーザである私に言わせれば,ハードオフ BGM のイメージタグを付けるとすれば「混沌,単純作業,かび臭さ,黄ばんだプラスティック,溶けた輪ゴム」あたりであるが,あの曲も実際にはずいぶんと異なる思いが込められていたようである。
なお,先述の通り非独占的なライセンスのため,所定の金額を払えば誰でも同一の曲を商用利用することができる(そしてこれがフリー音源を店内 BGM に使用するチェーン店を他に見ない理由である)。金額は永続ライセンスで 1 曲 3300 円と商用ロイヤルティフリー音源としてはリーズナブルな部類で,どんな店でも一発でハードオフにできることを考えると激安といっていいだろう。
BGM として使用する場合,1 ライセンスで使用できるのはひとつの住所だけであるが,2 店舗目以降では 30% 程度(曲目や利用形態によって変動)の「複製料」を支払えば使用できる。ハードオフの店舗は 2019 年 3 月時点で 895 店舗とのことなので,単純計算すると 3300+3300*0.3*894 = 88 万 8360 円ということになる。なお,大規模チェーン向けの「店舗等におけるBGM配信契約」というライセンス形態も用意されており,これだと 1000 店舗までは年間税抜 30 万円で使用できる。ハードオフが使用している曲は「SC-1903」のみなのでおそらく前者のライセンス形態を使用していると考えられるが,1000 店舗といえばハードオフが長く目標として掲げてきた(そして達成できなかった)2020 年の店舗数目標であり,ひょっとしたら「1000 店舗」という区切りにはハードオフが関係しているのではないかと思えなくもない。
仮にも一部上場企業がロイヤリティフリー音源で済まそうとするなよ……と思わないでもないが,まあ,下手に凝ったことをしないほうがうまくいくこともあるのだろう。少なくとも,あの BGM はハードオフの店舗によく合っている。
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